『GUNDAM CENTURY』スタッフや『∀ガンダム』の設定考証に関わってきたスタジオぬえの森田繁。設定遊び、から始まった『GUNDAM CENTURY』の制作周辺の思い出。各種作品に設定を提供してきた立場からの設定に対するスタンス。そして、その立場を通して見えてくる『GUNDAM OFFICIALS』への見解まで。
■『ガンダムセンチュリー』との関わり
 当時、SFセントラル・アートというSFファングループがありまして、学生だった私も一会員だったんですけど、今のぬえのメンバーも全員入っていたんですね。当然、『機動戦士ガンダム』にシナリオライターとして参加してSF設定もやっていた松崎健一もぬえの社員だったからSFセントラル・アートにいて、そこで、今度すごいアニメが始まるという話を聞いたんですよ。「スペース・コロニーが出てきて、ロボットじゃなくてモビルスーツという、巨大ロボットなんだけどパワードスーツの流れをくむヤツが出てきて、無重力の表現も正確にやってるんだ」って。それで番組が始まる頃にはもう同人誌を出すことが決まっていたんですよね。
 そのメンバーがもうプロとして活躍していた河森正治とか、まだ学生だった美樹本晴彦大野木寛なんていう連中。私も学生の分際で、絶対ビデオに録画するんだとJ7を買って(笑)。ただひとつはっきりさせておきたいのは、あくまで同人活動だったということです。もうアニメの仕事をしていた河森はソーラ・レイにアイデア提供したりしていたそうですが、SFセントラル・アートの会合などで、松崎が内部情報としてガンダムの現場の話とか、設定の話など口にしたことは一度もなかったですよ。昔も今も、松崎健一がいたから『Gun Sight』ができた、みたいに言う人も居るんだけど、それはない。全然関係ない。
 まあ、それでみんなSFファンのメカ好き、科学好き設定話で盛り上がるわけです。「ミノフスキー粒子というのが出てくるけどこれは何なんだ?」とか「スペース・コロニーってオニールのアレだろうけど、具体的にどんな物なんだ?」とか。それで、「ファンジンを作って設定の話をやろう」となったんですね。ただ、私はそのファンジン、『Gun Sight』の制作には関わってないんです。一会員でしかなかった。それがどこがどうなったのか『GUNDAM CENTURY』という商業誌として出ることとなったところで、声がかかったんです。「手伝ってくれ」って。当時、私は学生だったんですけれど、進行をやる人間が必要だからと。作業自体はよくあるもので、誰に何を発注していつ上がる予定という集計を全部プロットして1個ずつ追いかけてつぶしていく。で、遅らせるのはスタジオぬえの人間ですから(笑)、ずっと会社に居ずっぱり。そんなわけで、制作の進行だけじゃなくて原稿の執筆の手伝いもやったりしました。
 まあ『GUNDAM CENTURY』はみんなでこねくりまわして作ったという感じでして、AMBACSUITなんかは私がひねり出してたんですね。でもそんなこと完全に忘れてて、あとで「AMBACって、よく考えた名前だよね」って感心してたら「そりゃおまえが考えたんだ」って指摘されて(笑)。まさか公式設定になって、生き残っているなんて知らなかったですからねえ。『GUNDAM CENTURY』のあと「ぬえ」の社員になって、それからは『∀ガンダム』までガンダムには関わってなかったんですが、そのときになって色々教えられました。まるで昔、どっかでこさえた子供が突然やってきて「認知してくれ」ってなもんですよ(笑)。そりゃ身に覚えがないわけでもないが(笑)。
 わからないのが、いつ『GUNDAM CENTURY』が教科書になっちゃったのか。教科書になっていく過程を現場で見ていないんですよ。多分、プラモデルを作る人たちが資料を欲しがったとき、ちょうど『GUNDAM CENTURY』があってニーズにはまったということだとは思いますが。
 『宇宙戦艦ヤマト』以降、設定に突っ込みを入れる「設定遊び」が始まったんですけど、そういう遊びの行き着いたところのひとつが『GUNDAM CENTURY』だったと思います。ところが、これが到達点かと思っていたら実はスタートラインだったと言う恐ろしい話で(笑)。それの現時点での集大成が『GUNDAM OFFICIALS』ですよね。ただコンセプトは『GUNDAM CENTURY』と一緒でも、歴史の積み重ねがこんな分厚い本にしてしまった。今だったらおれ、手伝わないだろうな(笑)。

■ガンダムへのスタンス
 はっきり言って、私は初代のガンダムを見たっきりなんですよ。『Ζガンダム』とか『ガンダムΖΖ』の時はもう会社に入っていて、受け手から送り手側に回ってましたから。たぶん、ガンダマーのガの字も名乗る資格はない(笑)。「20年以上もよく続いてるなあ」というが正直な感想ですね。その人気の秘密がわかったら、とっくにポストガンダムの企画で一山当ててるはずなんですけど(笑)。まあ、人気が続くのは結果であって、それはあくまでも視聴者というお客さんの支持あっての話ですからね。
 そんなわけで、『∀ガンダム』に関わったのだって、ぜんぜん別の企画で打ち合わせしているときに、富野監督から「実はガンダムの20周年で、1本ガンダムを作る話があるんだがどう思う?」って聞かれて、私は素直に「馬鹿らしいからやめなさい」って答えたからなんです(笑)。たとえば、『七人の侍』が上映から30周年だからって、もう一度『七人の侍』作ろうとはしないでしょう? いや、するかな(笑)? とにかく、そう答えたら富野監督に、打ち合わせの後で「ちょっとつきあってくれ」と呼び出されまして。で、「君ほど明確に全否定した人はいない。だから手伝ってくれ」って(笑)。それが1997年の夏くらいの話ですね。たぶん、私がもしもガンダムを知り尽くして、ガンダムはこうでなければみたいな人間だったら、そうはおっしゃらなかったんでしょう。で、一歩引いた立場から、純粋に独立した一個の作品として『∀ガンダム』を把握し設定を作れということだと私なりに解釈して参加させていただきました。
 その後、1998年6月くらいに連絡があって「実はシド・ミードさんにデザインをお願いするんだけれども、あの人はインダストリアル・デザイナーだから、お願いするに当たっては設定的なものやスペック的なものがないとデザインができない。大至急、技術的な背景設定を作ってくれ」と依頼されました。その時には『∀ガンダム』の前に関わっていた企画が流れていて、その設定を『∀ガンダム』に流用することが決まっていたので、そこにナノマシンとか月の設定とかをぶちこんで設定の構築を始めたんです。
 ただ、だいぶ時間が経っていたので私も忘れてて(笑)、流れた企画をやっていたときご一緒させていただいていた堀口さんに、「今度も手伝ってはいただけないものか」と口を滑らせたら……「引っこ抜いてきました」って。可哀想に、『勇者王ガオガイガー』で忙しいはずなのに(笑)。
 その後、そのつながりで『ガンダム・ザ・ライド』も堀口プロデューサーから手伝ってくださいという依頼がありまして。ホールに並ぶまでのサラミス改の内装イメージ作りに色々とアイデアを貸してほしいと。それで、宇宙艦っていうのはこういう展示物があるとか、船の中だからこんな標識や注意書きがあるはずだというのを提案したんです。残念だったのは、本当の軍艦ならもっと狭くて、通路もあちこち気密ドアで仕切られてて、天井も低くて無数にパイプが走っていたりとかさせたかったんですが、法規制の関係ですべて思い通りにするわけにはいかなかったことでした。その他には、公社のコロニー生活のデモフィルムにもいろいろアイデアを出しましたね。光の川のように見えるコロニーの窓から外を望むと、周囲を飛ぶ宇宙船のブラスト光が見えるとか、いかにミラーを制御してコロニーに夕焼けを生じさせるか、とか。コロニーの現物を見ることは当然できないですから、想像でこう見えるんじゃないかと試行錯誤を繰り返して。で、最終的に落ちついたのは、絵として美しいコロニーを見せよう、と。雲の見え方なんかも散々議論したんですが、結局は実際にコロニーを作ってみないとわからない。ならば、映像的ビビッドでインプレッシブであることのほうが正解ではないかと考えたわけです。
 私は根っこが生粋のSF者なので、『∀ガンダム』を一部なりとも監督の嫌いな(笑)SFにできたことが自慢ですね(笑)。月の設定はとくに、力が入っています。あの運河都市の設定は、最大のお気に入りです。ただ、映像的には6分の1重力での燃焼や爆発、水の表現なんかに心残りがありますね。作画としては、0.2Gぐらいの重力表現が一番難しいんです。ぜひ描いて欲しかったけど、もしそうしていたら作画は完全に止まっていたでしょう。
 じつのところ、設定考証というのも変な名前ですよね。私の作業は考証というよりも、設定自体を作ることですし、映像作品としてのトータルな完成度を優先して科学的な正しさを犠牲にすることも多々ありますから。本当は、私が考証してもらわなくちゃいけない(笑)。だから、設定とか、考証とか、スーパーバイザーとかいろいろ呼び名はあるんですけど、最近は特殊設定(笑)って呼んでもらおうと思っています。

■雑感としての『GUNDAM OFFICIALS』
 こっちが作りすぎちゃうのが悪いのかもしれないですけど、最近の視聴者の方は設定を読んで、それで完結しちゃってる部分がありますね。今の作品は、企画の最初から設定を同時進行で用意して、辻妻も最初から合わせている。作り手側が、あらかじめ設定で遊ぶための余地を奪ってしまっているんです。ましてや、『GUNDAM OFFICIALS』が出ちゃえば、ほかに何を付け足せと(笑)。罪な本だよね(笑)。
 もっともプロの立場から見れば、これ1冊あればガンダム世界の中で書かれてない部分であったりとか、書かれているけれども掘り下げられていない部分がすぐわかるので、それを膨らまして物語を作るっていう「いけない遊び」(笑)がしたくなってくる。現実の歴史にしたって、第二次大戦をネタにしたドラマが今でもいくらでも作れるっていうのと一緒で。知られざる史実ってやつですね。『GUNDAM OFFICIALS』はその入り口を与えてくれる。その奥に広がる世界っていうのを想像っていうか、妄想するっていうのは、最高の知的遊戯だと思います。
『GUNDAM OFFICIALS』には二つの捉え方があるんですよ。物語や設定を勝手に作るためには足かせになる反面、とっかかりにもなってくれるという。私は、既存の設定をいじる場合にはそれを意図的に誤読する手法を多用するんですけど、それにもじつに役に立つ(笑)。ただ、そのためにはこれを読まなくちゃいかん。それも、腰を据えて。それはそれでしんどいなって思います。重い本だし(笑)。常日頃、設定の矛盾をつつかれて、「そんなの別にいいじゃん! 完成した映像だけが真実なんだよ!」ってケツまくるタイミングをいつも推し量っている人間としては、逃げ場が一つ失われた(笑)。
 しかし『GUNDAM OFFICIALS』が1万5000円の本として企画が通るって、すごい話ですよね。まともな人なら、普通は通さないですよ。商売考えたら不安になるもん(笑)。これにくらべたら、『GUNDAM CENTURY』なんて可愛いものですよ。それに、「ガンダム関係者の誰もがこんな本があったら便利だろうなと思いながら、誰も自分で作ろうとは思わなかったもの」を作っちゃうって、そのエネルギーはいったい何なんでしょうねえ……ああ、でも空恐ろしいのは、『GUNDAM OFFICIALS』も一つの到達点であると同時に、きっと次へのスタートラインになるってことだなぁ(笑)。
文:池上隆之

もりた しげる
老舗のSFサークル、SFセントラル・アートの一員だったことから学生時代に『GUNDAM CENTURY』の制作に関わり、その後株式会社スタジオぬえに入社。『超時空要塞マクロス』企画協力のほか、アニメ版『ダーティペア』『クラッシャージョウ』などの設定の制作と考証に関わる。サンライズ作品ではこのほかTVアニメ『聖戦士ダンバイン』、OVA『宇宙の戦士』に設定協力。OVA『ダーティペアFLASH』設定スーパーバイザー、TVアニメ『伝説の勇者 ダ・ガーン』ノベライズなど。ガンダム関連では『∀ガンダム』の設定考証、『ガンダム・ザ・ライド』の待合スペースのデザインへの考証やアイデアの提供をおこなっている。また、サンライズ作品以外では本年放映予定のTVアニメ『エンジェリック・レイヤー』に設定で参加している。