『アフタヌーン』2001年1月号に掲載されたGインタビューで取り上げられている井上幸一。そこで語られていた実写CG版ガンダム『Gセイバー』とは?U.C.年鑑とは何なのか?
■『Gセイバー』と『ガンダム』の関係は?
『ガンダム』との関係でいうと、『Gセイバー』の舞台は宇宙世紀(U.C.)223年となっています。『機動戦士Vガンダム』がU.C.153年でしたから、その70年後ですね。
また『Gセイバー』というタイトルは、基本的にはガンダムの精神を引く作品なんで、その頭文字のGを使っています。ただ、当時のアメリカではまだガンダムの認知度は低かったので、7番目のロボットという意味を込めて、アルファベットの7番目の字であるGをとっているという設定にしてあります。
もっとも、こういう裏知識的なものは好事家が副読本などで楽しめばいいことで、今度放映されるバージョンでは特に触れられていません。興味のある人は12月29日午後4時からテレビ朝日系で放映される『Gセイバー』を見て確かめてください(現在はビデオ・DVDソフトが発売中)。
『Gセイバー』は、初めてアメリカで制作する作品でしたので、かなり力を入れています。
従来、アメリカと日本の合作では、実作業の一部を預ける形式をとることが多かったんです。でも、そういう作り方でガンダムファンの熱い心を裏切る形になったらまずい。それで結局、最初から完全に一緒にやりましょうということで、現地調査から始めたわけです。
じつは、そこでCGを担当した人たちはガンダムという存在を知ってました。
モビルスーツのプラモデルも並行輸入したものを買っていたとか。逆に、こっちがガンダムの話をすると、「こういうグッズは手に入らないか」とか、「ガンダムの資料で一番いいのは何があるか」など、すごく熱い声が返ってくる。そういう意味では、ガンダムを本当に好きな人たちが、『Gセイバー』のCG部分を支えてくれたっていう感じがしますね。
ちなみに、CG制作はサンタモニカにあるサードストリートという、よく漫画とかドラマの舞台にもなる観光地の一角でおこなわれました。現在は作品も完成したので散り散りになっていますが、そこのディズニー・ショップの上が、じつは『Gセイバー』のデジタル・スタジオだったんです。1996年の暮れからそのスタジオの中で作業を続けて、1999年6月18日の沖縄試写の寸前まで制作がおこなわれたわけです。
■『Gセイバー』の見どころや、見るに当たっての指南は?
日本伝統のロボット物と呼ばれるアニメ作品と、むこうの実写とCGの技術が融合した作品というところでしょうね。そういう視点で見てもユニークな作品だと思います。さらに、こういう作品をもっと見たいという人が、どんどん業界に入ってきていろんな物を作れる。そういうひとつの入り口の作品でもあるんです。
そして、ガンダムというのは本来ならマンガのデザインなんです。サンライズにはほかにも色々と本物っぽいロボットの出る作品がある中で、なぜガンダムタイプであえてCGを作ったか? ガンダム20周年というのもありますが、アメリカ人が言うところのギミック、ああいうものが動いたら面白いんじゃないのというのがあったからなんですよね。
ところでGセイバーを動かす作業で参考になったのが、ファーストガンダムの動きのタイミングなんです。当時、安彦良和さんが18メートルの人型機動歩兵を動かしていたセンスみたいなものがアメリカのCGスタッフとシンクロしたんですね。
また、普通の人に見てもらうために、スペースコロニーではなくセツルメントという言い方をしたりしています。これは、アメリカではコロニーという言葉を不快に思う人もいるからです。劇中では描かれませんが、もちろん呼び方が変わった理由も考えてあります。
あるいは主人公はすご腕のパイロットですが、ヒロインは生物学者だったりします。つまり専門的なことを言っても相手にわからない。それでジェネレーターだのなんだの言わずに、あえてエンジンと言ったりしてるんです。相手に理解させたいとき、プロであるほどそういうくだけた説明をするものですから。だから、「あれ?」と疑問に思うところは、そこに専門家がいなかったから、普通の人にわかるようにやさしく話しているんだと思って見てください。
さらに、今回の放映版では『ガンダム』を知らない人にはわかりづらいところは普通の言葉に置き換えています。日本語版の演出をやられた飯田譲治さんが「ガンダムの中ではこういう風に扱っているんですね?」と聞いてきたところは、すべて変えたんです。逆に、『GUNDAM OFFICIALS』を買うような方は、TVを見ながら変えられた場所を見付けてガンダム語に置き換えてみると面白いかもしれないですね(笑)。
もちろん、ファンとしてはあれが見たい、これが見たいというのもあると思います。そうであれば、ぜひ『Gセイバー』をもっと強力に応援してください。そうすれば続きが作られて、気になる部分が描かれる、かも知れませんから(笑)。
■U.C.年鑑とはどのようなものですか?
U.C.年鑑といっても、聞いたことのない人は何のことかわからないですからね。一言で言えばガンダム世界の歴史や用語をまとめたものです。『GUNDAM OFFICIALS』とくらべたら非常に微々たる物なんですけど、ガンダム世界での最低限の年代、キャラクターだったら性格、あと用語の解説。ここらへんの所を統一した、チェックするためのひとつのよりどころとなる資料がU.C.年鑑なんです。
『ガンダム』という作品は20年前にシリーズが始まって、富野由悠季総監督の意向もあって続編は最初の物語から何年後、次の続編はさらに何年後という年代記の形式をとっているんです。もともとの『ガンダム』というシリーズは、宇宙世紀(Universal Century)という未来の歴史を描いている作品なわけです。
もちろん、1作ずつ独立して見ても楽しめるようには作ってあるんですが、前からのファンが継続して見ていると余計に興味深く楽しめる。すると、中には前作とのつながりを気にする人たちが出てくるんですよね。その歴史をまとめたものや用語集を作れないものかという要望がファンから出てくるようになったわけです。
ちょうど、僕が『機動戦士Vガンダム』の設定制作をやっていた1993年度、当時バンダイの出版課から出ていた
『B−CLUB』
という雑誌で
『宇宙世紀小monoグラフ』
という連載を持っていたんです。そこで「U.C.年鑑つくろうよ」って声をあげてみたら、いろんな方から熱い賛同のメッセージが届いたんです。「これ参考にしてください」と同人誌を送ってきた人もいたし、「あそことあそこにズレがあるので、何とかつないでください」というご意見もありました。どの人もガンダムのU.C.年鑑を真面目に捉えているんで、こちらのほうが驚いたくらいです。
それから2年ほどした頃。おりしも世の中はネットワーク時代に入っていて、サンライズも当時パソコン通信としては大手だった
ニフティ・サーブ
の中に
サンライズステーション
というオフィシャルな場所を持つことになったんです。そこで、1996年頃から会議室という一種の掲示板でU.C.年鑑を編纂していくことにしました。というのも、正直いって僕ら製作サイドにいる者より、一般ユーザーのほうが詳しいことが多いんですよ。
ずっとガンダムを見続けているファンの方の方が、本当に詳しくて、細かい部分の知識も豊富。そういう人の力を借りたほうが、僕らが単独でU.C.年鑑を編纂するよりも、精度の高いものができるだろう。そう考えて素直に協力を仰ぐことにして、ネット上で編纂を始めたわけです。その作業は非常にゆったりとしたペースで今でも続けられていますし、今後のシリーズの展開や新発見があれば、それで変わってもいくでしょうね。
■U.C.年鑑の編纂で事実がかわる?
ちょうどいま、すごく難しい問題がおきています。
今度アメリカで『機動戦士ガンダム』のTV放映が始まります。そこで固有名詞はなるべく日本語のまま持っていきたいんですけど、中にはアメリカ人が見たときに異常に感じるものがあるわけです。たとえば、コアファイターというのがありますよね。これ、日本でも表記が統一されていなくて「コア・ファイター」「コア ファイター」「コアファイター」と出版社や作品によってまちまちです。
ところが、これをアメリカに持っていって“CORE“と“FIGHTER”を離して書いたときにすごく不思議な英語になる可能性があるんですよ。“CORE“て中核、“FIGHTER”が戦闘機。これを中核になる戦闘機ととるのは日本人だけで、向こうの人は中核の戦闘機って何だ? とわからない可能性がある。“CORE“と“FIGHTER”を離した表記は英語上おかしいかもしれない。けど“COREFIGHTER”とひっつけた場合は固有名詞として成立してしまう可能性があるんですよね。“WALKMAN”みたいなもので。
そうなれば、「コアファイター」はひっついた単語になってしまって、ほかの表記はあり得なくなる。
フラウ・ボウだってドイツに持っていったら
変な名前
になってしまうから、向こうでは変えなくちゃいけない。ザクなんかも、いまは“ZAKU”と表記されてますが、これはローマ字の表記で、アメリカ人が読むと「ザクー」となってしまうから“ZAK”となるかもしれない。さらにズゴックとか、ゾゴックとかはゴッグというものがまずあって、その頭に「Z」がついたもののか、それともひとつの言葉なのかとか。
アメリカで展開をするときに、一般の人にわかるように日本で流通しているものを変える可能性があるんです。そうなれば、コンピュータでの管理なんかの都合もあるから、その綴りが正式な物になってもおかしくないんですね。
あと、10年前くらいから。『F91』や『Vガンダム』作っているときから、ガンダムを作るのに避けていたのが「最初の機体である」とか「最後の機体である」という表現。それは、歴史がすべて語られたあと、通りすぎたらわかるもので、歴史を作っている最中にわかることではないわけですよ。劇中でそう呼ばれるのは構わないんだけど、U.C.年鑑で最後と書かれていたからと「次にも出したかったんだけど、最後って書かれちゃったから出せない」という話になったら困るでしょ?
まあ、それが作る側の視点ですよね。
■U.C.年鑑と『GUNDAM OFFICIALS』の違いは?
U.C.年鑑は材料をテレビの映像の中に出てくるものだけに絞ったんです。それをまず、サンライズのオフィシャルな情報としてまとめた。
しかし、長い間にガンダムからいろんなものが生まれていて、漫画の連載もあったし、ムックやプラモデルもあった。すると、そういうものも含めてすべてを入れ込みたいという願望が出てくるわけです。
ですから『GUNDAM OFFICIALS』は、U.C.年鑑をベースに、他の媒体や商品に出てくる情報も全部まとめてしまおうというものですよね。すごく乱暴な言い方するなら、「これを買えば他のものは買わなくていいですよ」「ガンダムに関する情報がみんな入ってるんですよ」というわけです。
古事記とか日本書紀は公の史書ですが、すべての出来事が書き込まれているのではなく、中には無視された民間伝承とかもあるわけですよ。そういった資料を元に歴史書を編纂するとき、日本書紀にはこう書かれているけど、他の地方にもよく似た話でこんなのが伝わっていると注釈が付くでしょう。
同じように傍系の情報も含めて大きな百科事典にしてしまおうというのが、『GUNDAM OFFICIALS』の意義であり、U.C.年鑑との違いじゃないでしょうか。
オフィシャルズと複数形なところも面白いですよね。オフィシャルに商品化されたものの集合体だからオフィシャルズ。ネーミングもお洒落ですよね。
あと『GUNDAM OFFICIALS』では、何がいつどこに出てきたのかが全部探れるようになっているのがいいですね。
登場人物の誰かが持っている人形とか、子供の背負っているランドセルとか。重箱の隅をほじくり返すように見て、初めてひとつの文化に通じる部分が浮かんでくる。こういうのは、普通の1年で終わってしまうテレビ番組では描けない。たとえ描いたとしても、そんなに深く掘り込めないでしょ?
たとえば、ガンダムの中の一番好きなキャラクターにハロというロボットがいます。僕は富野監督が作った最強のロボット、それが子供の持つおもちゃとして、すべての作品に影響をおよぼすくらい出てくる。現実の世界でも子供の頃に遊んだおもちゃで、自分の息子や甥っこが遊ぶということはよくあるでしょう。『GUNDAM OFFICIALS』って、そういう部分に通じてくるところが歴史観として面白いなと思うんです。
■『GUNDAM OFFICIALS』の意義とは?
「『機動戦士ガンダム』ってどんなお話?」というのを説明するだけなら、原稿用紙10枚あれば足りるんです。ところが、あれが出てきて、これが出てきて、という欲の部分だけでいうと『GUNDAM OFFICIALS』という分厚い本(本文896ページ)になってしまうんです(笑)。
U.C.年鑑は映像を基準にという基本でやっていましたけど、『GUNDAM OFFICIALS』では編著者の皆川さんが頑張ってくださって、それ以外にあったものも情報として全部記載されたわけです。まあ、手が回る範囲でと注釈付きますけど。じつは、ひょっとしたら本人も知らないところに「ここにこんなものがあった」という突っ込みがあるかもしれないから(笑)。
ただ、知りうる限りは全部ここに入っている。そのエネルギーは、制作にかかった年月を見ればすごくはっきりしている。
おかげで、20世紀のガンダムのひとつの要になりましたよね。
たとえば出版の仕事をしている人には非常に助かるものになるんじゃないんですかね?
情報量が多すぎて何を取捨選択すればいいかわからなくなりそうなので、かえって資質が問われてしまうかもしれませんけど(笑)。
それくらい、1年戦争からそのちょっと後くらいまでは一番押さえている資料本になっていいますから、逆を言えば好きな人がこれを読んで、ガンダムの同人小説を書いて遊んじゃうとか。そういう人たちなんかは、ぜひ見て参考にしてほしい気はします。
あと、こういう知的遊びができるようになったんだという意味で、すごく意義があると思います。遊び方さえ見つければ、これ1冊で一生遊べる本になるんじゃないですか?(笑)。
そして、映像を作ってきた一人一人がそれを意図していたわけでもなく、何十人何百人が、しかも何年もかけてやってきたことがこういう形でまとまったのだから、ちょっと面白いかな?と。
「ちょっと面白い」
という、それ以上でも、それ以下でもないんですよね。
ただ、その
「ちょっと」
があなたにとってどれくらいの価値がありますか? それを問い掛けてくる本だと思いますよ。この『GUNDAM OFFICIALS』は。
文:池上隆之
いのうえこういち
1960年、山形県生まれ。玩具メーカーを経てサンライズ入社。設定として『太陽の牙ダグラム』『機動戦士ガンダムF91』『機動戦士Vガンダム』、設定・文芸として『装甲騎兵ボトムズ』に参加。デジタルスタジオの立ち上げを経て、現在は話題の実写CG版ガンダム『Gセイバー』のプロデューサー。